大判例

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山形地方裁判所酒田支部 昭和59年(ワ)5号 判決

原告

合名会社佐藤佐治右衛門

右代表者社員

清水克郎

右訴訟代理人弁護士

堂野達也

堂野尚志

土方邦男

被告

佐藤佐治右衛門

右訴訟代理人弁護士

奥平力

主文

一  被告を原告の社員より除名する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和九年一〇月二五日、酒類の醸造、販売等と目的として設立された合名会社で、現在の社員は、訴外清水克郎(以下「清水」という。)及び被告の二名である。

2  被告には、以下に述べるとおり、商法八六条一項五号に該当する除名事由がある。

(一) 長期間にわたる原告の業務執行不従事

合名会社の社員は、定款に別段の定めがある場合を除いて、会社の業務を執行する義務を負っている(商法七〇条)ところ、被告は、酒造業に興味を示さず、昭和二二年から昭和五一年一一月一日まで検察官の職にあり、この間原告の業務執行に従事しなかった。

(二) 原告に対する不当な解散の訴えの提起

被告は、昭和五六年五月六日、原告の解散の訴えを提起し、これに敗訴するや控訴し、平成元年一二月二五日に右訴えを取下げるまで、八年余りの間右訴訟を継続した。

被告は、清水や訴外佐藤力夫(以下「力夫」という。)に非合理な悪感情を抱き、同人らに原告の酒造業をさせるくらいなら、これを解散して廃業せんとする意図のもとにこのような訴訟を提起したもので、被告がこのような不当な訴訟を提起し、しかも、長期間にわたり訴訟を継続したため、原告は、その営業を妨害され、信用毀損等多大な損害を被った。

(三) 原告の金員に対する不法領得行為

(1) 原告は、被告所有の山形県東田川郡余目町大字余目字町二五五番地外の土地上に、家屋番号五六〇番、木造瓦葺平屋建店舗兼居宅の附属建物として、①登記簿上符合一四、木造瓦葺平屋建物置、49.58平方メートル及び②同符合一五、木造瓦葺平屋建物置、29.75平方メートル(以下「符合一四、一五の建物」という。)をそれぞれ被告から現物出資され、会社設立以来所有してきた。

(2) 昭和五四年五月、余目町で町道を新設することになり、右建物等の移転問題が生じたが、その移転補償については、訴外山形県余目町ほか四町土地開発公社(以下「公社」という。)が当事者となり、余目町教育長の佐藤十四幸がその担当となった。

被告は、右公社との間で、昭和五五年二月五日、前記建物等についての物件移転補償契約を締結するに際し、符合一四、一五の建物が契約書に対象として記載された以下の物件、すなわち、山形県東田川郡余目町大字余目字町二五〇番地一、二四八番地、二四七番地、二四六番地、二四三番地二所在、①倉庫、土蔵造瓦葺二階建、59.49平方メートル、②下屋、木造瓦葺平屋建、48.75平方メートル、③物置、木造瓦葺二階建、51.29平方メートル(以下、右各建物を総称して「本件建物」という。)、④その他立木竹等一切(以下「本件立木竹」という。)に該当することを十分知りながら、前記佐藤十四幸に対し、自己所有の未登記建物であると称して物件移転補償契約を締結し、原告所有の符合一四、一五の建物を原告に無断で取り壊したうえ、前記公社から補償金として九九六万九九五三円を受領し、不法に領得した。右のうち、仮に本件立木竹が被告の所有であったとしても、前記補償金のうち、本件立木竹に関する部分は、六七万四〇一〇円に過ぎないから、少なくとも九二九万五九四三円は不当な領得行為に当たる。

よって、原告は、被告の原告社員からの除名を求める。

二  被告の本案前の主張

商法八六条は、社員の除名宣言を裁判所に請求するには、他の社員の過半数の決議があることを要件としているところ、原告のように、清水及び被告の二名で構成されている会社にあっては、社員の一名が他の社員を除名することはできないと解される(大判明治四二年一〇月一三日民録一五輯七七二頁、大決大正一二年一月二〇日民集二巻一号八頁等)。なぜならば、このように理解しなければ、少数者が専恣をなして平和を害することとなり、また、除名が社員資格を剥奪することにかんがみ慎重な手続を要するという性質にも合致しないからである。

したがって、本件訴えは不適法である。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

被告が挙げる前記判例は、昭和一三年の商法改正以前のものであり、現行法のもとでこれらが維持されているかは疑問である。なぜならば、前記判例は、「社員の除名は、会社の存続を前提とするから、ある社員の除名によって会社が解散に帰する場合には、その除名は無効である。」と判示するところ、昭和一三年の商法改正で、社員一名となっても会社は継続できる(九五条二項)ことになったからである。商法八六条において他の社員の過半数の決議というのは、単に通常の場合をみて立言しているにとどまる。

四  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実のうち、被告が検察官の地位にあったことは認めるが、その余は否認する。

被告は、原告設立の経緯にかんがみ、検察官在職中も常々検察官の職を辞してでも、原告の業務執行に当たりたい旨の意向を有していたものであるが、亡佐藤定、亡佐藤亮吉、亡佐藤裕雄らから排除排斥されたため、原告の業務執行に当たることができなかったのであるし、また、原告も被告が検察官の職にあることを容認していたのである。

(二)  同2(二)の事実のうち、被告が原告に対し解散の訴えを提起したこと及び平成元年一二月二五日に右訴えを取り下げたことは認めるが、その余は否認する。

右訴えは、清水が原告の独断的経営体制を改めず、そのため被告と清水との意見対立が激しく、同人らが一致協力して原告の運営に当たることが著しく困難であると判断した被告が、やむを得ず提起したものであり、社員として当然の権利を行使したものにすぎない。

(三)  同2(三)の事実のうち、被告が公社との間で物件移転補償契約を締結し取り壊した本件建物及び本件立木竹が符合一四、一五の建物に該当するとの事実は否認する。被告が公社から受領した補償金は、被告所有であった物件に対する移転補償として受領したものであって、符合一四、一五の建物に対する移転補償金ではない。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一被告の本案前の主張について

被告は、社員の除名を裁判所に請求するには、他の社員の過半数の決議が必要である(商法八六条)から、原告のように二名で構成されている会社にあっては、社員の一名が他の社員を除名することができず、したがって、本件訴えは不適法であると主張する。

よって検討するに、当裁判所は、以下の理由から、社員が二名の会社においても社員の一名が他の社員を除名することができると解する。すなわち、まず、商法八六条は、社員の除名を裁判所に請求するには、他の社員の過半数の決議があることを要件としているが、これは社員が三名以上の通常の場合を規定したものとみることができ、このような形式的な理由のみで、社員が二名の会社につき除名を一切否定するのは不合理である。また、原告が挙げる大判明治四二年一〇月一三日民録一五輯七七二頁、大決大正一二年一月二〇日民集二巻一号八頁等は、社員が二名の会社において除名を肯定すると、会社は当然に解散し、会社の存続を図る法の趣旨に抵触することを理由に、除名は認められないと判示しているけれども、これらは昭和一三年の商法改正前の判例であり、右改正により、社員が一名になった場合でも新たな社員を加えて会社を継続できるものとなった(九五条二項)ことにかんがみると、右判例はもはや現行法のもとでは妥当せず、会社の解散を生ずるとの理由で除名を否定する必要はなくなったと解されるからである。

よって、被告の本案前の主張は失当である。

第二本案の請求について

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因2(除名事由)について

1  請求原因2(一)及び同(二)について

(一) 被告が検察官の地位にあったこと、被告が原告に対し解散の訴えを提起したこと及び平成元年一二月二五日に右訴えを取り下げたことは、当事者間に争いがない。

(二) 〈書証番号略〉、証人佐藤力夫の証言、原告代表者本人尋問の結果、被告本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告の目的とする酒類の醸造、販売等は、もと被告の祖父亡佐藤佐次右衛門(以下「亡佐次右衛門」という。)が個人事業として営み、その後、同人の長男で家督相続をした被告の父亡佐藤佐治右衛門(以下、旧名で「亡亮多」という。)がこれを承継したものである(もっとも、しばらくして同人は、余目町の町会議員として活動するようになった。)が、亡亮多が昭和三年一一月一七日死亡すると、昭和九年一〇月二五日、亡佐次右衛門の妻亡佐藤定、同人らの二男亡佐藤亮吉、四男亡佐藤裕雄、五男亡佐藤七郎、六男亡佐藤國雄及び亡亮多の長男である被告(当時未成年であり、母である佐藤榮が財産管理を辞任したため、亡佐藤亮吉が後見人に就任した。)の六名を社員として原告が設立された。その際、被告が家督相続により亡亮多から取得した営業用土地、建物等は、被告の現物出資として原告に供されることとなった。当初、亡佐藤定及び亡佐藤亮吉が原告の共同代表社員となったが、亡佐藤定が昭和二九年六月死亡すると、同年一〇月一七日、定款の代表社員の規定が削除され、亡佐藤亮吉が業務執行社員として原告の営業を継続した。

亡佐次右衛門と亡佐藤定の七男である清水は、昭和一一年一〇月二五日、亡佐藤定の持分の一部を譲り受け、原告の社員となった。

そして、現在、原告の社員は、清水と被告の二名のみとなっている(以上の事実のうち、原告が、昭和九年一〇月二五日、酒類の醸造、販売等を目的として設立された合名会社で、現在の社員は、清水と被告の二名であることは、当事者間に争いがない。)。

(2) 昭和二八年ころ、亡佐藤亮吉が病気入院すると、同人の長男で国税庁醸造試験所に勤務していた力夫が、退職のうえ原告において従業員として稼働するようになったが、昭和三〇年亡佐藤亮吉が死亡すると、当時の社員であった亡佐藤裕雄、亡佐藤七郎、被告及び清水は、いずれもそれぞれ遠隔地において別個の職業に従事していたことから、力夫に原告の日常の業務社員を委任していた。

そして、昭和四三年に亡佐藤七郎が、次いで昭和四七年に亡佐藤裕雄がそれぞれ死亡し、原告の社員が被告と清水の二名になると、清水が事実上業務執行を行う社員として、日常の業務執行を力夫に委任し、これを受けた同人は、原告代表者清水の名義で、原告の業務を遂行するようになり、決算報告や重要な取引等について清水に適宜報告をしたり、同人と協議するなどしていた。

なお、原告の社員総会において、力夫を原告の社員に加えることが審議されたことがあったが、被告がこれに強く反対したため、結局、現在に至るも同人を社員に加えることができない事態にある。

(3) 一方、被告は、旧制新潟高等学校文科、東京帝国大学法科を卒業後、海軍主計士官に任用され、戦後、復員して生家へ戻り、昭和二一年には襲名をして「亮逸」から「佐治右衛門」に変更したが、亡佐藤定らの願望に反し、結局、原告の営業には従事することなく、昭和二二年に司法修習生に採用された後、検察官に任官すると、以後、昭和五二年一一月一日辞任するまで、その報酬も被告名義の銀行口座に振り込まれていたにもかかわらず、社員総会の通知を受け取ってもほとんど出席せず、原告の業務執行に従事することはなかった(ただ、原告側としても、この間、被告が検察官の職にあり、原告の業務執行に従事しないことにあえて異議を唱えはしなかった。)。

なお、この間、被告は千葉地方検察庁次席検事をしていた昭和四七年五月一五日、清水との間で何ら協議することなく独断で、山形銀行余目支店長に対し、「佐藤裕雄は五月七日死亡に付き退社し、被告が当社代表者に就任しました。ついては、取引きは別紙の印鑑によられたく、お届け申し上げます。」旨の手紙を出したことから、これを聞知した清水の代理人弁護士から書面で「現職の検察官として、会社の代表者として行動することは、法律上妥当でないと考えます。」との通告を受けるということがあった。

また、被告は、検察官を辞任した後も、東京都内に居住し、原告の業務執行に従事していないうえ、原告店舗に来訪した折りには、かえって原告の従業員に暴言を吐き、同人を困惑させるということがあった(以上の事実のうち、被告が検察官の地位にあったことは、当事者間に争いがない。)。

(4) 被告は、かねがね、原告の設立当時、亡佐藤定及び亡佐藤亮吉らは、被告が未成年であったことを奇貨として、被告の母佐藤榮及び被告を取り囲み、暴力づくで、右佐藤榮をして財産の管理を辞させ、被告の後見人に就任したうえ、その地位を利用してほしいままに被告が家督相続により取得した資産のほか亡亮多の酒造業の営業権を、原告の資産とするとの名目のもとに侵奪したものであるから、原告の設立自体が不当なものであると考えていたほか、被告が終戦後復員して佐藤佐治右衛門を襲名した際、当然原告の代表社員に加えられるものと信じていたのに、亡佐藤定及び亡佐藤亮吉よって排斥されたうえ、現在、原告は、あたかも力夫の家業のように、同人の勝手気ままになされているとして、原告の存続、経営体制に強い不満を有していた。

被告は、原告を自ら退社する意思はなく、逆に、昭和五六年五月六日、原告に対し、解散の訴えを山形地方裁判所酒田支部に提起し、昭和六〇年一月三一日これに敗訴するや控訴したが、平成元年一二月二五日に右訴えを取り下げた(以上の事実のうち、被告が原告に対し解散の訴えを提起したこと及び平成元年一二月二五日に右訴えを取り下げたことは、当事者間に争いがない。)。

以上のとおり認められる。

被告本人尋問の結果中には、被告は、これまで原告の業務執行に従事する意思があったが、排除排斥され続けた旨の供述部分がある。しかし、清水及び力夫らにおいて、被告が原告の業務執行に関与することを、次第に敬遠するようになってきた事実があったことは否定できない(ただし、これも元はといえば被告の適切さを欠く言動が原因をなしているとみられる。)にせよ、現実に、被告が、原告の業務執行に従事したこと及び清水及び力夫らに対し、そのような意思を明示したことを認めるに足りる確実な証拠はないし、また、少なくとも被告が検察官在任中は、法律上(国家公務員法一〇三条一項)、国家公務員が営利企業にかかわることを禁止されているのであるから、真に原告の業務執行に従事しようとする意思があるのであれば、検察官を辞任せざるを得ないのであるが、被告が検察官を辞任しようとしたことを認めるに足りる証拠もないから、結局、被告が原告の業務執行に従事しようとしたことがあったとしても、どれだけ真剣に考えた結果かはなはだ疑問であり、被告の前記供述はたやすく採用することができない。その他、前記認定に反する被告本人尋問の結果は、採用することができない。

(三) 右の認定事実を総合すれば、被告は、検察官在任中はもとより、原告設立後現在に至るまで、原告の業務執行を現実にしなかっただけでなく、真にそのような意思もなかったこと、被告が原告に対し解散の訴えを提起したことには、清水や力夫の実際の業務執行の当否とは別に、原告設立の経緯やその後の事情を客観的事実に即して理解せず、亡佐藤定及び亡佐藤亮吉ら、ひいては清水や力夫に対する強い憤懣の情が背景をなしていることを推認することができる。

2  請求原因2(三)について

(一) 被告が、公社と昭和五五年二月五日物件移転補償契約を締結し、本件建物及び本件立木竹を取り壊したこと、その結果、被告が公社から移転補償として九九六万九九五三円を受領したことは、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

(二) まず、本件建物及び本件立木竹が符合一四、一五の建物に該当するか否かを検討するに、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告設立に際し、被告が家督相続により亡亮多から取得した二〇六番宅地四五八坪九合三勺ほか一一筆(二〇六番甲、二〇七番、二五二ないし二五五番、二五七番の一、二五八番の一、三三一番、三三二番の一及び三三三番)の土地所有権、二五二番、二五五番宅地に現在する木造瓦葺平屋建住家一棟ほか建物一五棟の所有権、二〇一番四の宅地ほか一筆に対する地上権を現物出資したこと、右木造瓦葺平屋建住家一棟ほか建物一五棟は、原告名義で保存登記がなされた昭和一〇年九月三〇日当時、登記簿の表題部には、前記現物出資の対象とされた土地及び地上権の目的である土地の各地番を一括した記載がなされたうえ、主たる建物として木造瓦葺平屋建住家第一号建坪九〇坪外庇坪二三坪五合、附属建物として第二ないし一六号が記載されたが、附属建物第一四号及び一五号については「同上字町二五〇番の一宅地現在」と付記されたこと、しかし、その後、右登記簿の表題部が改製され、その所在欄には「山形県東田川郡余目町大字余目字町二五五番地」、家屋番号欄には「五六〇番」、種類、構造、床面積欄には「木造瓦葺平屋建店舗兼居宅443.80平方メートル」との記載がなされ、附属建物として符合一ないし一九の建物の種類、構造、床面積が記載されているが、その現在地は特に記載されていないこと、本件建物は、前記二五〇番の一宅地上に存在していたことが認められ、一方、同二五〇番の一宅地上に符合一四、一五の建物以外の建物が存在していたことを認めるに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件建物は、符合一四、一五の建物に該当すると認められる。

しかし、本件立木竹については、原告に所有権があることを認めるに足りる証拠はない。

(三) 次に、被告が右事実を知りながら、公社と前記物件移転補償契約を締結したものか否かを検討するに、本件全証拠によっても、被告が、本件建物が原告所有の符合一四、一五の建物に該当することを知っていたことを認めるに足りない。

(四) そうしてみれば、その点につき被告に過失があったといえるかはともかく(被告の過失についての主張はない。)、結局、被告が前記移転補償費を不当に領得したとまで評価することができないというべきである。

3  まとめ

以上に認定した事実を総合すると、原告の社員である清水と被告との感情的対立は激しく、その信頼関係は完全に破綻し、両名が一致協力して原告を継続することはもはや困難であるといわざるを得ず、原告が主張する除名事由のうち、被告が原告の金員を不法に領得したとの除名事由は認められないが、被告は、原告が設立されて以降、真に原告の業務を執行する意思を有せず、現実にも業務を執行することがなかったにもかかわらず、かねてから亡佐藤定及び亡佐藤亮吉らが被告の財産を侵奪して原告を設立し、かつ、被告を原告から排除排斥したなどと恨みを持ち、ひいては清水や力夫に対しても強い憤懣の情を抱くに至ったことから、約三〇年間在職した検察官を辞任すると、翻って検察官より原告の醸造業に従事したかったなどと言い出して、同人らの業務執行を一方的に非難し、ついには清水が事実上業務執行に従事している原告に対し、解散の訴えを提起したと認められる。

そうしてみれば、被告には、重要な義務(商法七〇条、六八条、民法六七一条、六四四条)違反があり、しかも、その主観的情状は重いというべきである。

したがって、被告には商法八六条一項五号に該当する除名事由があると認めるのが相当である。

第三結論

よって、原告の請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官飯塚宏)

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